トオキ ハル

時は早春、卒業式も間近な三月のとある日。

「仲良し三人組」の高校生たちが、思い出の地で遭遇したある事件とは…?

――過去の事実――

 

 外にいてもどうしようもない。そのことを悟った3人は、ログハウスの中に戻った。しかしその室内も、かりかり、かさかさという音と、部屋の奥のキッチンや屋根裏部屋の辺りで、ネズミの姿が妙に増えている。

 むしろ、この部屋の方が、外よりもおかしいのかもしれなかった。

 

相模:なんか、多すぎねえ?(笑)

早川:ここ、食い物ねえよなあ?

樋口:…いや。ちらっと、鳥越の亡骸を見やって。

早川:あ。

樋口:齧られたら、かわいそうだしな。見ててやろうぜ。

早川:そう、だね。

相模:なんでそんな、怖いことばっかりお前ら、考えるんだよー!(笑)人の体齧る鼠とか、考えたくないよ!(笑)

KP:〈アイデア〉。

樋口:うぐぉお~! 5分の1成功しちゃったよ!

相模:うん、成功。

早川:そんなうめくほどでは。

樋口:5分の1どころか、20分の1成功しちゃったよ。(笑)03。

KP:はい。そうすると、学校での噂、怪談話。というのがありまして。その中に、鼠に食われて死んだ子供がいる、というものがありました。

樋口:あう~。

早川:それは、あのー…。

KP:かくれんぼをしていたら、隠れたところが物置で、鍵がかかってしまって、出られない。で、その出られない部屋の中に鼠がたくさんいて、その鼠に食われて死んだ、という怪談があります。で、03だったよね? その怪談話が広まった時期を、はっきり思い出せます。あなた方が、小学校2年生の頃です。その前後に何かあった、という記憶。は、思い出せました。

樋口:確かこれって、元になった事件があったはずだよな。と、言う。声に出して、言う。

相模:小2の頃だよな、確か。

樋口:そうそう。確か、俺たちが8歳か9歳か、そのぐらいだったはずだ。これは、共有しといたほうがいいだろう。

KP:では、〈アイデア〉、また。

相模:うん、成功。

樋口:んー、ちょっと足りない! 俺は種をまいたにもかかわらず、失敗。(一同笑)

早川:普通に成功はしたよ。

KP:えーと、早川くんなんですけど、さっき感じた、一人足りない、という記憶。それが明確に、小学校2年生からだ、という事を思い出せます。

早川:ほうほう。

KP:で、相模君。あの、要さん。本当に、今までいたっけ、という疑問がわきます。さっき、子供の頃の要さんの顔、見ましたよね。で、今、遺体となって倒れてる訳で、18歳。なんですが、その間の顔を思い出せません。

相模:はー、はあはあはあ。

早川:「なんかその辺が今一つ曖昧で、はっきりしないんだよな」

樋口:一体、どういうことだ?

 

 ここで3人は、手持ちのスマートフォンやパソコンの画像フォルダを確認することを思いついた。そこには最近とは言え、ここ一、二年の写真が入っている。そこに「仲良し3人組」の一人である、鳥越要の画像がないという事は、ありえないはずだ。

 だがおかしな事に――あるいは、予想通り――要の写真は、一枚も無かった。

 

樋口:なあ。時計とか狂ったりしてるし、パソコンのデータも、変わっちまってるのかも知れねえなあ。

相模:そんなのねえだろう!(一同笑)

早川:そしたら、何も確かなものは無いじゃないか。(笑)

 

 何のために確認したんだ、君は(笑)。

 

KP:で、そんな風に言い合っていると、外で、がたがたっ、がたがたっ、ぢぢーっ、ぢぢーっという、鼠のけたたましい鳴き声と、がたがたいう音がします。

相模:ちょ、何、今の。(笑)

樋口:鼠だと思う。思うが。

早川:ちょっと、目に見えて震えてる。俺らが齧られんのかよ!?

相模:やめろってば!(爆笑)

KP:そうすると、ばさって音がした。この辺から。

樋口:えっ? 二階?

KP:いや、二階に上るはしご段の辺りに、新聞が落ちてる。

樋口:え。鼠が、落としたのか?

早川:じゃあ、恐る恐る近付いて、そいつを拾う。

樋口:お、おい、早川!

早川:だって、じっとしてるのも、落ちつかねーんだよ!(笑)

KP:古い新聞ですね。10年ぐらい前の。

樋口:8歳のころの…、だよな。

相模:…うん。

早川:持ち物欄に書いておこうか。(苦笑)

相模:「読んだクトゥルフ神話の魔道書」に。(一同笑)

 

 それは一般紙の半分の大きさの、いわゆる地方新聞だった。予感めいたものに突き動かされ、見出しをざっと眺めていく。その中に「別荘地で小学生の遺体発見」というものがあった。

「亡くなっていたのは、28日から行方が分からなくなっていた鳥越要ちゃん(8)。死因は病死と見られ、――」

 

KP:それで、新聞見てる人たち、〈目星〉。

樋口:だめです。

相模:成功。

早川:だめである。

KP:その新聞というのは、古くてあちこち汚れてるんだけれども、新聞の端の方に、小さな手形が付いてる。

樋口:鼠…じゃない?

KP:博物学。

相模:おっ、成功した。

樋口:博物学? よし! 成功です!

早川:あ、失敗。

KP:鼠の足跡というのは、普通こんな感じなんだ。(図を描く)でもこれは、どっちかっていうと、人やサルの手形に似てる。

相模:鼠の足じゃねえよ、これ!?

KP:SANチェック。

樋口:うう~? うん、成功。(笑)何なんだよ、この手形は!

KP:頭の上では、かさかさ、かさかさと音がし続けている。

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